サリウの動乱

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 クルサード辺境伯は、マリアの言葉に首肯するしかなかった。溺愛する娘を最前線に送りたくはない。もし、本当にダンジョンが暴走すれば、砦など一瞬にして崩壊してしまう。そうなればマリアが助かる可能性はない。しかし、クルサード家はこの地を任された辺境伯だ、この地の民を守らなければならない。 「分かった。マリア、お前に兵300を預けよう」  危険を感じたら、すぐに逃げる様に。その言葉を、グッと飲み込んだ。  マリアは一礼すると、その身を翻して退室する。その後ろ姿には悲壮感などなく、この地を守る強い決意だけが滲んでいた。  部屋の隅でその一部始終を見ていたシャルルも、マリアと同じ様に部屋を出て行く。  正直なところ、ダンジョンが暴走しようが、シャルルには関係がなかった。勇者であった頃ならば、何を差し置いても、どんな犠牲を払おうとも駆け付けなければならない、そう感じた。しかし、もう勇者は辞めたのだ。何の義務も責任も、今のシャルルにはない。  だが、マリアは一時とはいえ行動を共にした知人だ。それならば、せめて魔物から逃げる時には手助けをしたい。どんなに無様な姿であろうと、サリウまでは無事に送り届けよう。そう考えていた。  外に通じる廊下で、シャルルに気付いたマリアが振り返る。シャルルは同行を願われるものと思っていた。言われなくても、最初から付いて行くつもりだった。 「シャルル様、ここでお別れです。  どう考えても、砦は長く持ちません。そして、この街も魔物の大群に囲まれるでしょう。ですから、シャルル様は今すぐに、この地からお逃げ下さい。そして、もし、どこかの街に辿り着いたら、この地に起きた事を伝え、援軍を依頼して下さい。私は、クルサード家の人間です。この地を、民を守るために出陣致しますわ!!」  そう言い切って笑顔を見せるマリア。もう誰も信じる事ができなくなっていたシャルルの胸が、ミシミシと音を立てる。  城門付近に集められた兵士達。その正面に馬に跨ったマリア。状況を知らされ浮足立つ兵士達に向かい、マリアに声が響く。 「間もなくダンジョンが暴走します。私達は砦まで行き、そこにいる人々を救い出さなければなりません。  そこで貴方達に訊ねます。何のために兵士はいるのですか。民を抑え付けるためにいるのですか。いいえ、兵士は民の命を守るためにいるのです。―――さあ、参りましょう!!」
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