赤と青の分岐点

14/14
9081人が本棚に入れています
本棚に追加
/516ページ
「な、こ、こいつ・・・」  残りの4人が腰に佩いていた剣を抜く。もはや、新人イビリでは済まない。下手をすれば、大怪我、あるいは死人が出るかも知れない。そんな状況においても、シャルルには全く動揺の色は見られない。剣を抜く素振りもない。  シャルルはダンジョン砦での攻防を思い出していた。絶体絶命の危機に陥っても、周囲を鼓舞し、常に顔を上げていたマリア。  ―――強さとは、何だ?  迫りくる剣を最小限の動きでかわし、一回転して裏拳を顔面に叩き込む。そのまま背後の男の懐ひ飛び込み、顔面を拳で打ち抜いた。視認できる速度を超えた動き。瞬きする間に、2人の冒険者が路地裏の壁に吹き飛んで、前のめりに倒れる。  何が起きたのかは分からないが、目の前にいる小僧が只者ではない事だけは理解できる。残りの2人は、路地の出口に向かって一目散に走り出した しかし、前を走っていた男が突然倒れ、それに巻き込まれる形で、最後の1人もその場に転げる。手で小石を弄ぶシャルルの姿を目にし、倒れた男の後頭部がへこんでいる事に気付いた。 「ま、待ってくれ、お、俺達が悪かった」  必死に、震えながら土下座する男は、真っ先ににギルドで絡んでき冒険者だった。 「有り金出す、出しますから、どうか、許して下さい」  懐からジャラジャラと銀貨や銅貨を出し、地面にばら撒く男。それを見たシャルルから、全身の力が抜けていく。  許すも許さないも、裁くのはシャルルではない。襲われたから撃退しただけで、特に怒りがある訳でもなく、制裁を加えようとした訳でもないのだ。それでも、頭を地面に擦り付ける男。その前に立ったシャルルは、その頭を蹴り飛ばした。  ただ、理不尽な事だけは我慢できなかった。全財産を叩いて旅に出ようとしていた者がいたかも知れない。ようやくクエストをクリアし、報酬を受け取った者がいたかも知れない。その人達が、理不尽に捕まり、蹂躙される事だけは断じて許せない。  力足らず魔物に食われるのは仕方がない。山賊に囲まれ、切り刻まれるのは運命だ。しかし、ギルドで待ち伏せし、騙し討ちされる事だけはあってはならない。それでは、ギルドに、人に、裏切られただけではないか。  シャルルは薄暗くなり始めていたメインストリートに出ると、今晩泊まる宿を探す。今夜だけはゆっくり休む予定だ。明日からは、険路を進まなければならないのだから。
/516ページ

最初のコメントを投稿しよう!