ユーグロード王国の進撃

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「なに!?もう一度言ってみろ!!」  ユーグロード王国の王城最上階に、ダムザの声が響く。その声には苛立ちはなく、喜色に満ちている。 「はっ、ラストダンジョンの調査に行っていた者の報告によりますと、枯れていたと」 「枯れていた?・・・ハハハハハハハハ!!そうか、枯れていたか!!」  ダンジョンは魔物を生み、希少金属を埋蔵する洞窟である。ダンジョンには最深部に、そのマスターたる魔物が潜んでいる。その魔物を討伐すると魔物が生まれる事はなくなり、ダンジョンの機能は停止する。この、ダンジョンの機能が停止した状態を、「枯れる」と呼ぶ。  この枯れた状態は、主にダンジョンマスターを討伐した時に生じるが、稀に、マスターが移動した際にも起きる。ダムザは後者を予想していた。当然、ゴミとして捨てた勇者モドキが、単独で魔王を討ち果たしたとは思っていない。 「陛下」  耳元で囁かれる甘美な声音に、ダムザは大きく頷く。 「分かっている。ガザドラン・ザガールを呼べ!!」  王の間から下がっていく文官を眺めながら、ダムザは歪な笑みを浮かべる。そして、リリスから差し出された深紅に染まる飲み物を一気に呷り、荒々しく口元を拭った。  ラストダンジョンの調査を命じたのはダムザである。  ダムザは王位に就くと同時に、兄である第一王子のカインを、辺境の地インシュプロントに幽閉した。天に太陽は2つあってはならない。自らの地位を盤石のものにするため、その影響力を削いだのだ。当然のことながら、カイン派の諸侯はその処置に反発し、意を唱えた。ダムザはそれを予測していたかの様に、即座に挙兵し殲滅した。もはや、ダムザに意見する者は国内にいない。  国内を平定した後、ダムザが目指したのはムーランド大陸の統一だ。ユーグロード王国は大国とはいえ、同じムーランド大陸には、他に大小5つの国がある。それらを侵略、滅亡させる事により、大陸を一国で支配しようと考えている。  全世界から魔石を集め、武器を量産し、ほんの僅かな期間で武力は以前の数倍になった。今ならば、隣接する国々と友好条約を結んでいる今ならば、奇襲により成し遂げられるはずだ。卑怯ではない。戦略だ。油断する方が悪い。  ただ、ラストダンジョンだけが、魔王だけが懸念材料だった。その唯一の障害さえも、向こうから勝手に無くなった。後顧の憂いもない。何もかもが思い通りだ。
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