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「……」 「どうしたの、言ってごらんよ」 「……この戦争に、縁を感じたのよ。不思議な縁を」  無理やり小さな声を紡ぎ出すと、アイヴィーは穏やかに笑った。息が止まりそうになる。  彼は綺麗な顔をしているが、この胸の高鳴りは決して恋ではないのだと思った。ただ、この美しさに気圧されていたのだった。あまりにも彼が美しく笑うから。  ただの美しさではなかった。人生の荒波を乗り越え、全ての運命を受け入れて老成したような、そんな芯からの美しさだ。  普段とこういった時のギャップのせいで、きっとこんなに息が詰まるのだと彼女は思った。 「そうか。確かに不思議かもしれないね」 「……ええ」 「でも、その不思議な縁が君と引き合わせてくれたんだと僕は思うよ」  彼女の頬にさっと紅が差した。ただふざけて口説いただけだと思い込もうとしたが、こんなにも真剣な表情や言葉で言われたのは初めてで、一瞬でも彼は本気なのではないかと思ってしまったのだ。慌ててその考えを振り払う。  そんな訳ないでしょ。会ったばかりの相手に。  言葉を失って黙っているシャノンに、アイヴィーはにっこり笑いかけた。その顔を見てみると、いつの間にか妙な雰囲気はきれいさっぱり消えていた。普段通りの、あのおちゃらけた態度の男がそこにいた。 「あれ、惚れちゃった?」 「……」  気がついたら足が出ていた。机の下で脛を抱えて悶えているアイヴィーを彼女は冷たい目で眺めた。  涙目でこちらを上目遣いで伺った彼は、「そんな蔑んだ目も綺麗で素敵だよ」と言ってもう一度脛を抱える羽目になった。 「で、おばあちゃんの何が聞きたいの?」 「彼女の人生だよ。まだご存命かな……?」 「残念だけど2年ほど前に亡くなったわ」  そっか、と彼は少し寂しげに言った。そしてそっと脛をなでた。まだ痛むのか。ちょっと強く蹴りすぎたかもしれない。
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