1人が本棚に入れています
本棚に追加
「きっとおばあちゃんはあなたの大叔父さんを忘れてなんかいなかったと思うわよ。戦争で亡くなった大事な人を簡単に忘れるような人じゃなかったもの。母におばあちゃんの遺品を送ってもらうわ。大切そうなものは彼女が亡くなった後も取っておいてあるのよ。確か日記帳と写真があったとか」
「そっか、手間かけて悪いね。ありがとう。俺も君にできる限りの情報提供をするよ」
「私からもお願いするわ。じゃあ、明日も会いましょう。場所は……またこの店で良いかしら。ここの料理も気に入ったし」
「分かった。明日の夜6時にここで」
そういうとアイヴィーはゆっくりと立ち上がり、追ってシャノンも立ち上がった。
彼はさらっと会計を済ますと、シャノンを促して2人で店を出た。
財布からお金を取り出そうとしていた彼女の手を押さえて、「せっかく君がご飯に付き合ってくれたんだからここは俺に奢らせて」と言った。ばちんという音が聞こえそうなウィンクもついでに付いてきた。うん、やはり図られていたか。
「そう、ならお言葉に甘えようかしら」
「うんうん。そうしてよ」
「じゃあ、また明日。6時にこのお店ね」
「え、送っていくよ。夜も遅いし危ないから」
「大丈夫よ、そう遠くないもの。心配ならあそこの角まで送っていってくれる?本当にすぐなのよ」
「分かった。じゃあ行こうか」
曲がり角まで着くと、彼はにっこり笑って手を振った。シャノンはくるりと彼の方を振り向いて笑い返した。
「またね」
「……うん、また明日」
宿の方へ歩き出すが、後ろが気になって振り返った。彼はもういなかった。あとには生ぬるい風が吹き抜けるばかりで彼がいたという証拠はもうどこにも無い。シャノンは目を見張った。
まるで幽霊みたいな人ね。
背中がぞくっとして、口元には笑みが少し零れた。何故か心は浮き立って、わくわくしている。彼は今まで無かった刺激を自分にくれるのではないかという予感があった。
最初のコメントを投稿しよう!