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 少しうろ覚えだけど勘弁ね。確か、この話をしてくれたのは私がお父さんと結婚する時かしら……おばあちゃんね、「この人、って決めた人とちゃんと約束どおり結ばれるって本当に幸せなことよね」って言ったのよ。  どういうこと?って聞いたら、おばあちゃん笑ってね。「私はね、昔、今のお父さんじゃない人と婚約してたの。もちろんお父さんと結婚できて幸せだったわ。でもね、私昔の婚約者も大好きなの。今でもね」って言ったわ。  お父さん――シャノンにとってはおじいちゃんよね。おじいちゃんはおばあちゃんに昔婚約者がいたのを知った上で結婚したみたいよ。でもおばあちゃんね、「今でも昔の婚約者が好きっていうのはあの人には言っちゃいけないのよ。妬いちゃうから。好きなのは知ってるんだけどね」って笑って言ってたわ。確かにおじいちゃんはちょっといじけちゃいそうよね。ふふ。「でもね、お父さんに対する『好き』と昔の婚約者に対する『好き』って全然違うのよ。お父さんとはね、これからも一緒に添い遂げて一緒に歳をとって、そしてどっちかが死ぬまで隣にいたいの。昔の婚約者はね、私の思い出の中でずっと変わらぬまま、私も彼も若いまま、色褪せずに息づいてる。好きな気持ちは変わらないのに、時は進まないまま2人とも過去に置いていかれてるのよ。――あの人が死んだ時、私もきっと一緒に死んだのね」そう言っておばあちゃんはどこか寂しそうな顔をして空を見上げてたわ。天国にいる婚約者を探してたのかもしれないわね。……あらやだ、なんかロマンチックなこと言っちゃったわ。でもね、おばあちゃんにこんな素敵なロマンスがあったなんて私それまで全然知らなかったのよ。なんだかワクワクしちゃったわ。  あぁ、遺品を送ってくれっていう話だったわね。おばあちゃんが亡くなってから遺品を整理したの。そしたらね、婚約者が亡くなったところで終わってる日記があったわ。あと、古びた写真ね。婚約した時に撮ったのかしら……2人とも形式ばった服を着て、でも幸せそうに笑ってる写真だったわ。この二つを送るわね。
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