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「いえ……一昨日初めて会ったばかりですし……」 「そうなんですか。アイヴィーさんが誰かを連れてくるなんて初めてだったので。しかも女の人」 「あの女たらしがですか?」  怪訝な顔をすると、彼女はカラカラと笑った。 「見てる限り全然そんな人じゃないですよ。いつも一人でお店に来てはどこか寂しそうな顔してました」 「え、」  そうは見えない、という言葉は飲み込んだ。でもなぜだろう、このカウンター席に座って長いまつ毛を伏せる様子が目に浮かぶ。確かにおちゃらけたような素振りをしながらも、時折見せる態度に何か寂しさのようなものを感じさせる人だった。 「一人で来てたんですか」 「ええ。つい最近ですね、来て下さるようになったのは。ここ数年の事ですよ。この町の人じゃないみたいで」 「どこから来たとか聞いてますか?」 「いいえ、あんまり自分のことは話さない人で……」  やっぱり掴みどころのない人だ。幽霊みたいな。追いかけようとして手を伸ばすとすり抜けて消えてしまう。  だがもう手を伸ばすのはやめようと思う。そんな掴めそうにないようなものを掴みにいくのはバカがやることだし、私はそんなにバカじゃない。そうだそうだ、もうやめよう。――彼のことは、忘れよう。あんな人もう知らない。  なぜか悲しみから諦め、さらに怒りにシフトしてしまったシャノンは唇を少し尖らせた。 「そうですよね。まぁどうせお互い行きずりなので別に良いですよ、もう会うこともないでしょうし」 「そんな事言わずに。あのアイヴィーさんがあそこまで執着してたんですからあなたのことがきっととても好きなんですよ。若いって良いですねぇ」  拗ねてツンとした様子のシャノンに、彼女は笑って言った。その言葉を聞いてシャノンの頬は沸騰寸前かというほど熱くなった。それを見てさらに彼女は笑う。
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