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 こんな風に、この日記に書かれているように、誰かに心を良いように掻き乱されたことなど今まで一度だって無かった。  今まで何人かに告白されたことがあった。だけど、こんなにも誰かのことを知りたいと、その心の奥まで私に教えて欲しいと思った人は彼だけだった。……気付くな。気付いちゃダメだ。  涙がこみ上げてくる。――彼に会いたくてたまらない。やめよう、やめようと思っていても頭の中は彼のことでいっぱいだった。彼の笑顔と寂しそうな顔が半々で心に浮かぶ。どうしてよ。だってまだ会って2日しか経っていないのに。どうしてこんなにも、あの人のことを考えてしまうんだろう。  もう会えないのに。――気付いたって、もう言葉を交わすこともできないのに。  瞳からこぼれ出て頬を流れる涙をそのままにし、シャノンはベッドに仰向けに横たわった。目を閉じると溢れた涙は目尻から流れ落ちて彼女の金髪を濡らした。  ぼんやりと昔よく読み聞かせてもらったおとぎ話を思い出した。  慎ましく生活していた女の子の元に、突然王子様が現れる。女の子はその王子様に初めての恋をする。紆余曲折を経て、最後には二人は晴れて結ばれる。ハッピーエンドだ。  でも、現実はそうじゃない。現実で起こるのは、恋をするところまでだ。恋をしました、結ばれました――恋がそんな簡単に実るものなら世の中に失恋して泣く人はいなくなるはずなのだ。  おとぎ話の女の子気分を味わえて良かったじゃない。たった2日間顔を合わせただけの関係だけど、……私にとっては立派な恋だった。待てど暮らせど再び王子様が来ることはありませんでした。私が主人公の物語はそれでおしまい。  貴重な経験をさせてもらった。おばあちゃんの美しくも悲しい恋物語も知ることができた。彼にはその点で感謝しよう。お店のおばさんには悪いけれど……私は彼とまた会えるとは思わない。おとぎ話を夢見る少女じゃないんだ。だから――。  シャノンはその日のうちに町を出て、職場のあるビル街へ帰った。
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