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「か、書き終わったらね」 「いつ?いつ書き終わんの?もはやいつとは言わず今読みたい」 「書き終わってからね!!」  ついにノートパソコンにまで手をかけ始めたルビーから守ろうと胸に抱えた。  彼女は不満げに唇を尖らせたが、ようやく諦めてため息をついた。 「じゃあ、書き上げたら。約束ね?」 「は、はい。」  正直に言おう。ルビーを怒らせると怖い。シャノンは書き上げたら必ず見せることを決意した。あの執念ならこの約束を忘れることはないだろう。例え一方的な約束でも。  実はもうほとんど書き上がっていた。フィクションを織り交ぜたが本当にあった事までは。ここからは事実と全く違うことを書いていかなければならない。  夢物語。掴みどころのない彼は、フラッとまたあの町にやって来て、そして彼と会うことを諦めなかった主人公と再会する。  彼がもし私のことを好きでいてくれたなら。また会いに来てくれたなら。そんな願いを言葉に乗せていく。  彼は私を抱きしめる。会いたかったと言う。私は泣く。  そして、夕焼けの中、あの荒野で手を絡めて繋ぐ二人。  これでおしまい。現実と違うこの物語はハッピーエンド。  これ以上は要らない。この先幸せになるだろう小説の中の二人を描く必要はもう無い。おとぎ話だって二人が結ばれて終わりだ。  いや――本当は違う。本当は、虚しくなってしまったのだ。  こんなことをして何になるんだって。  現実では叶わないことを描いて、何になるのよ。  でも、想い出を辿っている間は確かに楽しかった。結ばれた場面を書いている間は少しだけ主人公に自分を重ねることができた。  もう、充分だ。  涙が一粒だけ零れ落ちて、手の上で弾けた。熱を失って生ぬるかったその水滴は、拭うとすぐに蒸発して消えた。
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