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「あー、そんな目で見ないでくださいよー。俺、なんとなくここまで出たきただけだし……」  と言ってにへら、と笑いかけてきた。やばいやつほどこういう時笑いかけてきたりするものだ。  ――こいつちょっと危ないんじゃないか。 「そ、そうなんですね。では私は失礼します」  シャノンは即座にくるりと踵を軸にして180度回転した。そしてそのまますたすた歩き出した。 「待って待って帰らないで俺ほんとに怪しいもんじゃないから」  背後から走ってくるような足音がする。やばいやばい、追いかけてきた……!逃げなきゃ……!  後ろをチラリと見てみると慌てて片手をこちらに伸ばして追いかけてくる男の影が見えた。恐怖がじわじわと心臓を蝕んでいく。  本当に怪しい人ほど自分は怪しくないなどと言うものである。こんな奴の言うことを聞く必要は一切ない。むしろお巡りさんに通報して言うことを聞いた方が良い。  激しい心臓の鼓動。うまく動かない脚がもどかしい。早く逃げないと。 「ああああ待ってええええ、違う違う、君に聞きたいことが」 「……」 「君の親戚に……マルヴィナ・ブルックって人はいないかな」  シャノンは足を止めた。彼の方を振り返ると、夕陽のオレンジの中に彼女の長い金髪がキラキラと舞った。  マルヴィナという名前は、温かい記憶とともに思い出される懐かしい名前だった。 「マルヴィナは……おばあちゃんの名前よ。昔の名字はブルックだって聞いたことがあるわ。でも、なぜ……?」 「さぁ、何でだと思う?」 「……」  ふざけたように彼は言い、ニヤニヤした顔をこちらに向けてきた。苛立ちと先程まで感じていた恐怖とが入り混じって混乱する。  なぜ祖母のことを知っているのかとか、なぜシャノンの顔を見ただけで祖母の名前を言い当てたのかとか、そう言う疑問はどこかへ飛んでいってしまった。  シャノンはまた歩き出した。 「帰らないでー、ごめんてー」  乞うような声音で何度もごめんごめんと謝るので、嫌々ながら足を止めた。少し落ち着くと、実際先ほどの疑問が気になっていたのは事実だった。  ため息をつきながら横目で彼を軽く睨んだ。
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