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「俺、アイヴィー。アイヴィー・コーウェル。君のおばあさんの写真を見たことがあってね。瓜二つだったもんだから」
「私はシャノンよ。おばあちゃんに似てるとはよく言われるわ……」
再度ため息をついて名乗り返した。
この男はなぜ祖母の写真を見たことがあるのだろう。
疑問がぼんやりと頭に浮かんだが、さりげなく手首を掴まれてまたしても疑問は空の彼方へと飛んでいった。
「だよねー。ほんとそっくりだもん」
「……もう良いわよね。帰るわ」
軽く彼の手を振り払って、彼女は歩き出そうとする。が、またしても手首を掴まれた。
この男、これ以上何かやってくるようなら訴えてやろうかしら。そろそろ色々と限界だ。
ヘラヘラと男は笑うと、少し困った顔をした。引き止めたくて必死らしい。
「帰らないでー。そ、そういえば君は何でこんなところに?」
彼女はもう何度目かわからないため息をついた。
「取材よ。私ライターなの。50年前の戦争について記事を書こうと思ってるのよ。……あなたには関係ないでしょ」
「つれないこと言わないでよー。そうだ!俺も協力するよ!」
「結構です」
ふと、彼の目を見た。先程までとは何か様子が違う気がした。まるで、別人になったような……。神秘的な緑の瞳に吸い込まれそうだ。風が二人の間をそっと吹き抜けていった。
彼は柔らかく微笑んで、まるで愛しいものを見るようにシャノンを見つめた。
「――その取材ノート、見せてくれない?」
「……まぁ、良いわ。はい」
一瞬言葉に詰まったが、なんとか声を絞り出してノートをそっと差し出した。彼の雰囲気の急激な変化に心臓の鼓動が速まっていた。
彼の、細くて長い指がノートのページをめくっていく。シャノンは何も言えずにその指を目で追うことしかできなかった。お互いに何も話さず、聞こえるのは穏やかだが冷たい風に吹かれてカサカサと音をたてる枯れ木の音や、寂しげに鳴くカラスの鳴き声だけだ。
夕陽は彼がノートを見ている間に徐々に沈んでいき、最後の一筋が二人の横顔を照らした。
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