偏見

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偏見

空いている席へと腰を下ろし、周りの乗客を見渡してみる。 すると意外にも、満席とは言えないが席はまあまあ埋まっているといってもいいほどには乗客がいた。不気味さに拍車がかかるような状態である。 暫く(しばらく)すると、横にいた乗客に話しかけられた。 「あなた、どこから来たの。」 「わからないんです。いつの間にか駅のホームで寝てて、気が付いたらもう終電が終わってしまっていて・・・。」 「そうなの。それは大変だったわね。」 「ははは。そうなんですよ。ところでこの電車はどこ行きかわかりますか。」 「この電車はきさらぎ駅発の瘍(よう)怪(かい)町(ちょう)駅行きよ。」 「ありがとうございます。でも聞いたことのない駅名で、ますます帰り方がわからなくなっちゃいました。」 そう言って隣をみると、さっきまでフードをかぶっていた頭にはすでにフードはかぶさっておらず、代わりに一つ目がギョロリとこちらを見つめていた。 「ヒィッ」 思わず声をあげてしまう。 周りを見渡すとヒトの形を模した有象無象がこちらを見つめている。 「驚かせてごめんなさいね。」 横の一つ目の妖怪が申し訳なそうに謝った。 その一言で、さっきまで怖いと思っていた有象無象が自分の偏見によって生み出された架空の妖怪であったことに気が付いた。 ヒトの形をしているかどうかが判断の基準となってしまっていることに恥ずかしさを覚えた。 そうして、隣の妖怪と世間話をしている間に仲良くなり今晩は泊めてもらえることになった。
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