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「あなた、悪い夢でも見てたの?汗びっしょりよ。着替えたら?」
その声には聞き覚えがあった。そうだ。幼馴染の優樹菜だ。
でも、優樹菜はまだ小学4年生のはず。
僕だって。
階段を下りて、服を着替えるために、風呂の脱衣場に向かい、鏡を見る。
お父さんかと一瞬思ったが、これはまぎれもない僕の顔のようだ。
大人になった僕。
どうやら、僕は、何度目かの夏休みを飛び越えて、随分と未来にきてしまったようだ。
2038年年7月20日。
デジタル時計の日にちが物語り、下の日本間の鴨井には、母ちゃんの写真がかけてあった。
ああ、母ちゃん死んだのか。
僕が4年生のつい昨日までは、あんなにピンピンしていたのに。
その部屋に、布団が敷いてあり、以前の影も形もない、貧相な爺さんとなった父さんが横たわって寝ていた。
僕は、つい悲しくなって涙ぐんだ。
今日も、窓の外は、あの夏休みの始まりと同じように青いというのに、随分と遠くに見える。
「あなた、今日は雨の日だから。傘、忘れないでね。」
エプロン姿のおばさんになった優樹菜が俺に背を向けて忙しそうにご飯の支度をしながら言った。
「えっ、雨って。こんなに晴れているのに?」
そう答えると、優樹菜は怪訝な顔で僕を見た。
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