第一節 白色世界

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 ペイントされた部隊名は『JGSDF特殊作戦群』通称名、特戦群と呼ばれていた。その中でも特殊な能力者〝遺伝子変異能力覚醒体〟適合者を選別して編成された実験中隊群。  リーダーは群れの(おさ)の意味をあらわす群長(ぐんちょう)と呼ばれている。  大気を切り裂く騒音が鳴り響き、ヘリコプターのサイドのハッチが開かれると回転式の大型機関銃が逃げていた人物に狙いを定めた。三角形の構造で製造された隠密性に優れたステルス・ヘリコプターは停止飛行(ホバリング)していた。  強烈な灯りは、昼間と同じ明るさで、逃げていた人物の顔が露になる。  憔悴しきった表情と震える身体、そして肉体を襲う突然の老い。  頭髪は白くなり、額と目尻にシワが浮き出て急激な発汗筋肉の減退、男に急激な老化現象が襲いかかる。そればかりではない、頭部が異常な膨らみを見せて指先の異常な膨らみが象の手足のように醜く愚鈍な印象を与える変形を見せた。  ――適合が上手くできなかったか……。 発病したな――  男の身に起きた現象を冷静に、斑鳩が分析する最中、男が激しく咳き込んで、足元で動かなくなった。上空に待機するヘリコプターの射手に機銃の狙いを外すようにハンド・サインで指示すると、傍らに現れる男性と女性。  二人とも、迷彩の戦闘服を着ていたが階級章などは付けてはいなかった。  「斑鳩群長」  男性隊員が、敬礼して言う。  「星に成れなかった人間は、何に成るのだろうな……」  人で有ることを捨てたと、罵られた斑鳩群長は足元で動かなくなった部下を優しく抱き抱えるとヘリコプターの部下に回収を命令し帰投させる。  再び暗闇となった森は、次第に動物達の鳴き声のみとなって、樹木の匂いと人気(ひとけ)のない静寂が三人を自然のうちへと(いざな)うよう。  「彼なら、私達のように成れると思ったのですが」  女性の隊員が、言う。  「適合能力が報告と違っていたようだな。人間性を保ちながらも人間性を捨てること、困難な任務だが、我らには敗北は許されない」  男性隊員は、言った。
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