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杜鵑が夢だと思ったのは全てが見えていたからだ。
憬れる程、待ち望んだ世界。
青い空に、太陽の眩しさ、白い雲。
見るのは初めてであったが全てが理解できた。
世界の色、輝く星々、雪の白さには恐ろしいほどの美しさを感じる。草原の匂いと、緑の絨毯の肌触りは知っていたが見るのは初めてだった。
草原の向こうに見える山脈の力強い輪郭と雄大さに心が揺さぶられる。
はるか前方から走って来る四本足の生き物。
――大きい。美しくて勇ましい――
杜鵑は、白い馬を初めて見てそう思う。
漲る筋肉によって疾走する白い馬に魅入っていた。
――そうだ、姉さんは?――
夢なら姉さんの顔を見られる。
姉さんはどこだろう?
杜鵑が姉を探そうとした時、悲痛な鳴き声が聞こえた。
白い馬が、悶え苦しみはじめた。体中に何かが絡まっていたからだ。
有刺鉄線や荒縄が、馬の身体に喰い込み白い皮膚に真っ赤な血を流す。
足に絡まって、転倒させるとついに頸に絡まり悲痛な鳴き声で呻いた。
――ああッッ!――
杜鵑が、見たくないと瞳を手で覆う。
死んだ……。 杜鵑は直感的にそう感じた。今まで死を経験したことも見たこともないのに、そう思い、そう感じて自分の感情が制御できない程に掻き乱された時、
「見えるということは、そういうことさ。それとも見たくなかったか?」
不意に、声がかけられる。
――誰ッ!――
杜鵑が振り返ると、そこには自分がいた。
白い髪、白い肌、白い瞳孔と黒い角膜は不気味に杜鵑を見つめた。
反転した瞳の人物が唇をつり上げて笑う……。 狂気の牙と踊るような妖しい瞳に宿るは、自分とは真逆の凶悪なる魂。これは自分ではないと杜鵑は思った。
だが、杜鵑の魂が告げている。
コレは……。 自分だと……。
「き、君は……。 僕?」
杜鵑が、震えて聞いた。
「そうだよ。君が望んだ僕だよ」
白い杜鵑が、嬉々として答える。
「どういうこと? 分からないよ」
杜鵑は、弱々しく言う。
「僕はね、君が生まれた時から側にいるんだよ……。 誰からでも何からも君を守るために存在しているんだ。でも無償じゃあない。ククッ」
白い杜鵑が、杜鵑の目を指さし言うと短く笑った。
「どういうことなの?」
杜鵑は、わけが分からずに聞いた。
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