第一節 白色世界

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 青い空。  紺碧の深い海。  空を飛ぶ鳥の(さえず)り。翠緑(すいりょく)の森。  陽の光、奇跡のような色彩の虹色の虫。  天空を舞う蝶の渡り。  太陽の輝きと夜の暗闇。  誰もが感じ取れる当たり前のこうした事柄。そんな当たり前の世界から拒絶された人間は、いずこへと歩みを続けることができるのだろうか。その問いに何者も解答できぬことが逆に証明する通り、人間達は知的な進化を遂げていない。  肉体的な進化はしているが、昆虫も動物も人類も精神の進化を達成しておらず、混沌の世界で必死に万物は生きて死んでいく。  不条理というべき世界に希望を見出すことは人間の心の仕業である。  これは真実と言えるだろう。  絶望にうち勝つ精神を持つ者が存在するとして、その人間の身体がたとえば不具ならば、あるいは醜悪ならば、世界はどう映るのであろうか。  大いなる力が正しく使われぬ時代、正しいが脆弱なる力が何かに屈しようとしている時代は未来でも過去でもない。  まさにこの現代なのだ。  人間が進むべき道に輝きが失せ何もない世界。望むと望まぬとに関わらず人間達の前に現れては立ち塞がる。人はそれを実存といった。  また、選択ともいう。  天命に立ち向かえる者は幸福である。
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