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東京、如月の空から降る小雪が風景に非日常を与える。
個性を殺した純白の建築物。
それはどこまでも広く巨大な印象を与える。
十数階を超えて物々しく建造された病院は数多くの窓があった。その窓一つ一つにある意味は単純にして明解、現実の世界から隔離された人間がいることだ。
彼ら入院患者には窓から見える風景、それがまるで夢の世界のように感じられる。
外気は零下に近い気温だが、病院、特に入院病棟は暖房が心地良い室温で管理されている。室内は、薄手の病衣でも寒さなど感じない。
窓一枚の向こうの現実と、この室内の現実は大いに違う。
建物ワンフロア全てを使用した特別室のベッドには、少年が横になり窓から外を見ていた。蛍光灯は点けられておらず、薄暗い室内は医療機器の光だけが輝いている。
傍らには、背もたれのない簡単な椅子に腰掛けた女性が静かに微笑む。
腰までのゆったりとした純黒色の髪を紅色のリボンを飾っている。
長いまつ毛に、澄んだ小川のような透きとおった黒い瞳、均整のとれた身体、落ち着いた雰囲気の紺色の金属フレーム眼鏡が育ちの良さと知性の高さを思わせた。
「杜鵑、どうかしたの?」
女性が少年の名を呼ぶと、陶磁製のティーポットから温かい紅茶を注いで、甘い蜂蜜を飲み物に溶かした。
優しい心地よい声だ。
「姉さん、外から雪の降る音が聞こえるんだよ」
杜鵑が、窓に手を当てると微笑んで言う。
薄く茶色味を帯びた長めの前髪。その少年は少し痩せた身体を清潔な寝間着で隠すように綺麗に着ていた。幼さを残す顔に、肌は白く陽光を知らぬ動物のようでもあった。
十代半頃の年齢は、汚れを知らぬ美しさを感じさせた。しかし、どこか人間として生きて行くには何かが不足している。
世界を知らぬがゆえの純粋な温室の花を想い起こさせた。
「本当ね……。 寒いと思っていたら、雪なのね」
姉の蒼華が、カップの上にソーサーを置いて、蒸らしていた紅茶をソーサーに戻すと、杜鵑の手を握りそっと渡した。
「熱いから気を付けて飲みなさい」
蒼華は、優しく見やる。
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