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「ねえ、姉さん。雪って白いんでしょう。白色ってどんな色なの?」
上半身を起こして、杜鵑がティーカップから位置を確認して口をつけ聞いた。
その質問に、困った様子を見せた蒼華。
「難しいわね……。 私には説明できないわ。ごめんなさい杜鵑」
個室入院して、数十年の時間を過ごした少年。この天之宮姉弟には両親がいなかった。杜鵑が幼い頃に事故で亡くしたのだ。
杜鵑に残されたのは、年の離れた姉、蒼華だけであったが、それでも生活に困窮はしなかった。
姉が語るには、父と母には親類縁者はおらず四人家族だったが、仕事で築いた財産があり二人が数度の人生を全うできる莫大な財産が残されていたという。
父の好きな食べ物、母の好きな動物、姉の好きな音楽、海、山、あらゆる物を教わって十五歳に成長した杜鵑。
しかし、杜鵑にはその全てを正確には理解できていなかった。
杜鵑は生まれた時から完全に失明していたからである。
父母や姉の声、息遣い、歩く足音、全てが正確に聞けた。だが、そこには記憶に残る鮮明な映像としての視覚記憶はない。
「謝るのは僕の方だ……。 姉さん。困らせてごめんね。気にしないで」
杜鵑が、笑顔を見せ言う。
「一度も、何も見たことない人に空や海、草花の色を説明するのは困難ね」
蒼華は、外の景色を見てうつむいた。
そう、誰も説明することはできないわ……。
一筋の光さえ見たことがない者に、誰がこの世界の美しさ醜さを伝えられるかしら。蒼華はそう思い、視線が定まらないまま思考の世界に入る。
私には、当たり前の世界だけど杜鵑には全く知らぬ世界……。 姉弟なのに同じ場所、同じ血肉、同じ心を持つはずなのにまるで住んでいる世界が違う。
蒼華が、自身の思考に囚われていると、
「姉さん、僕は家に帰りたいよ」
杜鵑の声に、我にかえった。
いけない…… 。 蒼華が杜鵑の顔を見つめる。
「杜鵑、貴方は身体も少しよくないのよ。ここはとても良い病院だし、先生も名医と評判の人ばかりなのよ。大丈夫、もう少しすればいつでも私と暮らせるから」
蒼華は、穏やかな微笑みで言う。
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