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「それに家の方が周りを気にしないでゆっくりお話しできますから」
「住所は聞いていますが、近くですか?」
「タクシーで10分位です」
「じゃあ、すぐに行きましょうか? 時間を大切にしたい」
二人は席を立って、ホテルの入口でタクシーに乗った。彼女を先に乗せて乗り込む。彼女は行き先を運転手に伝えている。家はよく知っている場所の近くのようだ。
車の中では何を話したらいいのか分からないので、黙っている。運転手に聞かれるのもいやだ。彼女も同じように黙っている。
10分足らずで家の前に着いた。料金は彼女が支払った。ごく普通の一戸建ての住宅だった。着くと同時に玄関ドアが開いて父親と母親が出てきた。
「よくいらっしゃいました」
「突然、お訪ねして申し訳ありません」
「娘が我が儘を申しまして、母親の登紀子です」
「初めまして、吉川 亮です」
「どうぞ、おあがり下さい」
リビングへ通された。そこでしばらく両親と話をした。僕は両親と弟について話した。父親は家族の話をしてくれた。母親は僕の好きな食べ物を聞いていた。嫌いなものはないと答えた。
両親とも穏やかで好感がもてる。僕の両親が「親を見て決めなさい!」と言っていたのを思い出した。
「私の部屋で二人だけでお話ししてもいいかしら?」
彼女は両親の前では話しにくいことがあるようだった。
「そうだね、せっかくだから、二人でゆっくりお話ししなさい」
両親は我々を二人にさせてくれた。もう30過ぎと30前のりっぱな大人だ。
二階の彼女の部屋に案内された。部屋は少し広めの洋室だった。8畳くらいはある。両親が高校時代のままにしてくれているそうだ。どこでも親ってそういうものだ。親ってありがたい。
部屋の真ん中にふわふわの絨毯が敷いてあり、そこに座卓がある。彼女が座ったので、反対側に腰を下ろす。近すぎず遠すぎず、話すのに程よい距離感がある。
座ってこれからというところで母親が飲み物を持って部屋に入ってきた。彼女はそれが分かっていたのか、母親が部屋を離れるまで何も話そうとしなかった。
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