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「そうでしたか、ご縁があるかもしれませんね」山村さんが驚いた様子で言う。
「父親の山野信男です。母親の体調が悪いので私が付いてきました」
「亮の母親の吉川静江です。よろしくお願いします」
ひととおり自己紹介が終わって着席すると、ウエイトレスが注文を取りに来る。山村さんは紅茶、ほか全員はコーヒーを注文した。
父親から勤務先の会社名と役職を改めて聞かれたので、名刺を渡して説明した。また、仕事の内容や休日、勤務時間なども聞かれた。母親は料理が好きか聞いていた。彼女は好きな方で自炊していると答えていた。
僕は彼女に大学の学部と専門、今の勤務先と仕事などを聞いた。意外なことに、彼女は派遣会社の社員で今は商社に派遣されているとのことだった。
有名私立大学を卒業しているのに不審に思って就職先について聞いたが、事情があって2年前に前の会社を辞めたと言っていた。
その事情については詳しく話してくれなかったが、こちらも今は聞く必要がない、お付き合いが始まってから聞けばよいと思った。そもそもお付き合いするかまだ決めていないし、彼女の意思もある。
ひととおり話をして、話題が途切れたところで二人は席を変えることになった。考えていたとおり、すこし離れたホテルのラウンジへ行くことにして二人で歩いていった。
実を言うと、ここは前の見合いの時の会場だった。二人で奥の隅のテーブルに座った。今度は紅茶を注文する。
「新幹線で席が近くだったなんて、本当にご縁があるのかもしれませんね」
「そうかもしれませんね、驚きました」
それから、僕は兄弟のことを聞いた。弟さんが一人いて、就職していて大阪に住んでいるとか。
彼女も僕の兄弟のことを聞いた。弟は2歳年下で独身。僕と同じで大学を卒業して東京に就職して千葉に住んでいる。
どちらの家も子供は二人とも故郷を離れて大都市に就職している。ここでは希望の就職先が多くないからだ。両親の老後はどうなるのか、誰が面倒を見るのか、それが気がかりでもある。
これは故郷を離れたものの心配事でもある。まして長男長女ならなおさらだ。でもあえてこのことには触れなかった。先のことなんか誰にも分からない。
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