第1話「ポイント・マテリアル」

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第1話「ポイント・マテリアル」

    ガァ、ガアァン……!! 「オークだ!!」 「警護の部隊!!」  村の見張り台に立っている自警団の男達、異変を知らせる鐘の音と共に、彼らの悲鳴混じりの声が張り裂けんばかりとその口から、村中へと放たれる。  カァウ、カァアン!! 「もう、オーク共が乗るワイバーンの姿が見えているぞ!!」  その声、そして見張り塔から響く鐘の叫びが傭兵隊、村の主力警備部隊が寝泊まりしている宿舎の屋根の上を、ややに強い春風に乗って滑り。 「ウ、ウゥン……」  その木造りの建物内へ、木窓を抜けて飛び込んでくる。 「くそ、うるさい……!!」  フゥ……  窓の隙間から差し込む日の光に、年若い傭兵が持つ金色の髪が美しく輝いて、粗末な枕から流れてこぼれた。  ドゥ!! 「おい、傭兵!!」 「分かっている……」 「とっとと起きろ!!」  蹴破るようにドアを押し開けた村の自警団の男の声に答えながら、ベオ少年は自身の金色の髪へ手をつっこみ、クシャクシャと掻きまぜながら寝台からその身を起こす。 「こんな辺鄙な村を襲うとはな……」  先程の自警団の男が他の部屋を回っている様子がその慌ただしい足音と共に窺える中、ベオは軽く頭を一つ振って、サイドテーブルの水差しからじかに酔いざましの水を口へと注ぎ込む。 「先に行ってるぞ、ベオ!!」 「怒鳴るなルクッチィ、頭へ響く……」 「寝坊助が!!」  すでに身支度を整えている傭兵仲間が、部屋の中も見ずにベオへ一つ声をかけてから、板床を軋ませつつに階段を駆け降りていく音を耳へと入れながら。 「フゥウ……!!」  再度にベオはこうべを強く振り、気合いの声をその口から吹かせつつ、素足のまま左脚をベッド下の革ブーツへと差し込んだ。 「オーク、とか言っていたな……」  シュ……  もう片方の脚をブーツへ滑らせたベオはそう、厄介な隣人の名前を口に出しつつ。 「エルフではなくて、残念だな」  少し、心持ち急ぎながら靴の紐を巻き始めた。 ――――――
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