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僕はそういう彼女を羨んだ。今でも、彼女の好意が嘘のように思うことがある。あまりにも自分とは不吊り合いで。それでも。
「ねぇ、好きだよ」
突然言われる好意の言葉は結局、嘘には思えなかった。だから、一年という時間が経とうとしている今でも彼女をはっきりと好きになれていない自分の嫌さが沸き立ってくる。
純粋に好かれているのに、純粋に好き返せない。それどころか、他愛ないとさえ感じてしまう。
「ありがとう」
そう言いながら内心苦しんでいて。全く主人公らしく無い悩みだと絶望している。意識的に主人公であろうとするのは、無理難題と気付くのに時間はあまりかからなかった。
それはそうだ。物語の主人公は、いつだって本気で本心で生きている。なろうとしてなれるものではない。なれる訳なんて無かったのだ。なら、きっともう終わりにしても良いはずだ。
駅前に続く大通りはイルミネーションの光と
人で溢れていた。
「幸輝は私のことどう思ってる?」
珍しく、彼女が好意を聞く。思えば、口にした「好き」は告白の嘘だけかもしれない。
「分からない」
凡庸な正直者でしかない自分はこう答えるしかった。
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