主人公

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主人公

 誰しも、物語の主人公だなんて言うけれど本当だろうか。いつも気になっていた。  自分は、特別と呼ぶには酷く凡庸で、秀才と呼ぶには及ばない凡才で、恋に生きれる程に盲目にはなれず、誰かを救える程の英雄にもなれない。  それが嫌だった。何者かになりたくて、此処ではない何処かを目指してみたかった。だから、偽物になることにした。出来の悪い贋物になることにした。無意識では無く意識的に。  願わくばどうか、今日も主人公になれていることを。  今年も酷く冷える日だった。  夕暮れ空が無くなる早さを見て、改めて夏が遠い昔にあることを感じた。見ている間にも陽は沈む。  正門と真逆に位置する裏門。そこに僕は居る。裏門から出入りする生徒はあまり多くは無い。それを良いことに、気恥ずかしさがありながらも彼女との待ち合わせ場所によくしていた。 「お待たせ」  手持ちのスマートフォンから視線を上げて、声の方向を見やる。黒く長い髪が冷たい風に揺れていた。制服のスカートは寒そうだった。 「今、来た所だからそんなに待って無いよ」     
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