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子供の頃、親がよく言う冗談の中にこんなものがある。
『実はねえ、貴方は橋の下で拾ったのよー!段ボールに入って震えてたから拾ってきたの』
勿論、こんなものはお互いに“冗談だ”とわかっているから言えることである。本当に本物の親子ではなくて、それをお互いが気にしていたりするようなら絶対に口になど出来ないだろう。信頼があって、それがユーモアの類いだとわかっているから子供も笑ってツッコミを返す。えー、それじゃあワンコみたいじゃん、実は私ってわんちゃんだったのー?――みたいなかんじで。
しかし、我が家では――そのテの冗談は一切飛び交うことがなかった。理由は簡単だ。幼い頃の私が――割りと本気で、自分がこの家の子ではないのかもしれないと、そう考えて悩んでいたからである。
親兄弟の仲が悪かった、わけではない。両親も、年の離れた兄も甘いと感じるほど私に優しかった。そこそこ美形の範疇の両親に、その二人の顔のパーツのいいとこどりをしたようなイケメンな兄。大手銀行に勤めていた父は収入も安定していたし、我が家は広い一戸建てで結構裕福な生活を送れていたように思う。
我が家の問題は、たった一つだけだった。それは。
『よーぉブルドックババア!今日はピンクのフリフリ着てどうしたんだ?あ、わかった、飼い主に着せてもらったんだなー?』
幼い頃の私の渾名は、ブルドックだとか、ゴリラだとか、ブタだとか、顔ペチャだとか、もうストレートにデブスだとか――とにかくそんなものばかりだったのである。
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