第1章

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 「あたし……なんにもわかんない」  「なんにもって?」  もっと悲しそうな顔で聞くから、あたしはひっしに考えた。  「あなたはだれ、さっきいっしょにいた人はだれ、とか」  その人はぱちぱちまばたきして、首をちょっとかたむけた。  「なんだ、てっきり樋口のおなじみさんだと思いこんでたよ」  びんをにぎりしめて、考えこんでいるふうだったけど、ぱっとあたしに向いて、  「じゃとりあえず、自己紹介しよう。僕は仲間内では変態クロペディアって呼ばれてて、いろんなところで重宝されてる」  早口でしゃべりはじめた。  「赤ん坊の頃に、醜い赤毛のベビーシッターに犯されて、覚醒してしまった。うん、早期エリート教育を受けたってわけだ。けど、もちろんこの世界は広大で深遠だから、エリートといえども油断はできない。全方面に造詣深くあれかしと努力の日々を送っている。もし、君がミラクルキャンディーやらひみつ道具なんかが必要になったら、いつでも声をかけてくれよ。地域最安値でご奉仕いたします。えっとそれから、基本ラインはゲイなんだ」  やっと息つぎをして、あたしを見た。  「けど、君みたいなすてきなおっぱいの女の子も好きだよ」  タオルケットの中に手をつっこんだので、あたしは思わず声を立ててしまった。  その人は笑って、あたしをだきよせようとした。黒い長そでからほうたいがちらりと見えた。  「それ、けがなの」  あたしが聞いたら、その人は手をとめて、自分のうでをぼんやり見下ろして、  「ああ、これ? 自分でやったの。僕は痛いのが割に好きなもんでね、それはさておき、」  思い出したみたいに聞いた。  「樋口とどこで知り合ったの、どうしてやつは、君にそんな悲しい思いをさせるんだろう」  あたしは首を横にふった。  「ぜんぜんわからない。こないだとしょかんで会って、そのままうちに来て……」  「ふーむ」  砂色の人はあごに手をやった。  「なら、少し調べてみよう。何かわかったら教えてあげる。その代わり」  「そのかわり?」  あたしはどきんとタオルケットをかき合わせた。  その人はにこっとして、右手をさし出した。  「僕のこと嫌いにならないでほしいな。僕は鴎だよ」  あたしはほっと息を吐いて、  「きらいになんてならないよ。あたしえりすです」  鴎さんとあく手した。  
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