11人が本棚に入れています
本棚に追加
「あたし……なんにもわかんない」
「なんにもって?」
もっと悲しそうな顔で聞くから、あたしはひっしに考えた。
「あなたはだれ、さっきいっしょにいた人はだれ、とか」
その人はぱちぱちまばたきして、首をちょっとかたむけた。
「なんだ、てっきり樋口のおなじみさんだと思いこんでたよ」
びんをにぎりしめて、考えこんでいるふうだったけど、ぱっとあたしに向いて、
「じゃとりあえず、自己紹介しよう。僕は仲間内では変態クロペディアって呼ばれてて、いろんなところで重宝されてる」
早口でしゃべりはじめた。
「赤ん坊の頃に、醜い赤毛のベビーシッターに犯されて、覚醒してしまった。うん、早期エリート教育を受けたってわけだ。けど、もちろんこの世界は広大で深遠だから、エリートといえども油断はできない。全方面に造詣深くあれかしと努力の日々を送っている。もし、君がミラクルキャンディーやらひみつ道具なんかが必要になったら、いつでも声をかけてくれよ。地域最安値でご奉仕いたします。えっとそれから、基本ラインはゲイなんだ」
やっと息つぎをして、あたしを見た。
「けど、君みたいなすてきなおっぱいの女の子も好きだよ」
タオルケットの中に手をつっこんだので、あたしは思わず声を立ててしまった。
その人は笑って、あたしをだきよせようとした。黒い長そでからほうたいがちらりと見えた。
「それ、けがなの」
あたしが聞いたら、その人は手をとめて、自分のうでをぼんやり見下ろして、
「ああ、これ? 自分でやったの。僕は痛いのが割に好きなもんでね、それはさておき、」
思い出したみたいに聞いた。
「樋口とどこで知り合ったの、どうしてやつは、君にそんな悲しい思いをさせるんだろう」
あたしは首を横にふった。
「ぜんぜんわからない。こないだとしょかんで会って、そのままうちに来て……」
「ふーむ」
砂色の人はあごに手をやった。
「なら、少し調べてみよう。何かわかったら教えてあげる。その代わり」
「そのかわり?」
あたしはどきんとタオルケットをかき合わせた。
その人はにこっとして、右手をさし出した。
「僕のこと嫌いにならないでほしいな。僕は鴎だよ」
あたしはほっと息を吐いて、
「きらいになんてならないよ。あたしえりすです」
鴎さんとあく手した。
最初のコメントを投稿しよう!