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久しぶりのお食事会の日だったのに、はじめから譲次さんはようすがちがった。
いつもとおんなじようにいっしょに買い物して、あたしが住んでいるアパートの「ことり荘」に帰った。それからごはんをたいてチキンライスにしてたまごで巻いて、譲次さんはすてきなオムライスを作ってくれた。おとうふとわかめのみそ汁は、あたしが作った。
でも買い物の間も、作ってる間も、食べている間も、食べ終わってあたしがお皿を洗っている間も、ほんの少ししかしゃべらなかった。まるで、譲次さんの頭の中にむずかしい文しょうが書いてあって、それを一生けん命読もうとしているみたいだった。
あたしはその文しょうが気になってしかたなかったけど、読んでみたくはなかった。楽しいことはきっと書いてなさそうだから。
あたしはお皿洗いをすませて、ふきんをぱんぱんはたいてほすところにかけた。
台所からへやにもどったら、譲次さんはこたつに入ってほんとに紙を読んでいた。
「なに読んでるの」
って聞いてとなりにすわったら、少し笑って紙を見せてくれた。そこには糸みみずみたいな線が、うじゃうじゃ書いてあった。
あたしの顔や耳はさっとあつくなった。
「やめて!」
って、その手紙をとろうとしたけど、譲次さんは手を高く上げて、あたしからとどかないようにした。あたしはからぶりして、思わず顔が譲次さんのむねにぶつかった。譲次さんの体がびくっとしたから、あたしもこたつからばっととび出た。ひょうしにかかとでゴミばこをけっとばして、へや中にゴミがちらばった。
泣きたくなった。
ゴミをひろってたら、譲次さんはあたしの倍も早くゴミをひろいながら、
「なんで、そんなに嫌がるのさ、えりす」
って聞いた。
「だって」
あたしはごしごし目をこすった。
「へたっぴなんだもん。ようち園の子よりへんな字なんだもん」
ゴミをぜんぶひろって、譲次さんは笑った。
「僕には宝物だ。えりすが初めてくれた手紙じゃないか」
あたしは高橋さんのおうちで字を習った。
高橋さんは譲次さんのしょく場の住所を教えてくれたので、あたしははじめての手紙を譲次さんへ書いた。ぜんぶひらがなの手紙だった。
「それに、」
って譲次さんはいって、おかしの四角い缶を持ってきた。おかしはずっと前に食べちゃって、中にはあたしたちふたりの手紙がぎっしりつまっていた。
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