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譲次さんからはじめてお返事が来た日、うれしくてうれしくてあたしは手紙をだいてねたんだっけ。
「これはすばらしい記録だ。えりすの手紙は一通ごとにどんどん、字も文章もきれいに読みやすくなっていく。どれだけ賢いのかがわかるね。さっき改めて読み返して、すごく感心した。これなんて、」
一番新しいあたしの手紙を缶から出した。
「字を覚えて二年もたたない子が書いたなんて、誰も信じないよ」
「譲次さん、それほめてる?」
あつくなった鼻をおさえて、あたしはとなりにすわった。
譲次さんはにっこり目を細めて、
「もちろん。君は天才だ」
っていった。
あたしはなんだか顔がかゆくなって手でこすった。
「天才のわけないじゃん。あのね、高橋さんが一生けん命教えてくれたから書けたんだよ」
さっきちゃんとふいたのに、手はぬれていた。
「高橋さん、教えてくれたの。まちがったら、おちついて、最初からやり直せばいいんだって。だから、あたし、何度も何度もまちがって、それから何度も何度もやり直したの。だって、できるだけきれいな手紙を譲次さんに書きたかったから」
譲次さんはぽかんとあたしを見たけど、すうっと口をとじてまじめな顔になった。
「えりす、ごめん」
っていって、あたしにうでをのばした。
今度は、あたしがびくっとした。
「だめ、譲次さん」
っていったくせに、ぜんぜんだめだなんて思わなかった。あたしもぎゅっとしがみついた。
譲次さんは、
「ずっと、こうしたかった」
ふるえる声でいった。
「僕はダメだ、ダメだ、ダメな男だ。君にはとてもふさわしくない」
「なんで、だめじゃないよ」
あたしの目から、またなみだが出た。うれしくて悲しくてこわかった。
耳に譲次さんの息がかかる。せ中に譲次さんの手の力がこもる。譲次さんの息や手や体はすごくあつい。あたしの体もすごくあつい。じっとりあせをかいて、息ははあはあして、すごくはずかしかった。くさかったらどうしよう。
譲次さんはきれぎれにいった。
「ずっと、ずっと、こうしたかった、いや、これどころか、もっといやらしくて、汚くて、ひどいことがしたい。したくてたまらない。でも、そんなことしたらいけない、えりすを傷つけてはいけないって抑えつけていた」
「どうして、がまんするの」
あたしはずっと思ってたことをいった。
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