第1章

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 ぽんと、そでの部品を束であたしになげた。  班の人たちがそろってくすくす笑いはじめたけど、あたしはその束をひろってよく見た。ピンクのバツ印はなかった。だから、ほうっと息を吐いて、  「これ、あたしのぬったやつじゃありません」  って、チーフにいった。  竹内チーフの目の横がぱっと赤くなった。  「あんた、何、責任逃れするつもり? どう見たって、あんたの縫った袖じゃないの」  あたしはミシンの上の、あたしがぬったそでをチーフに見せた。  「ほら、ここ。あたし、ぬい終わったら、このピンクのバツ印をつけることにしたんです。でも、この束にはひとつも印がありません。だから、この束はあたしんじゃありません」  チーフは束をよく見てくれなかった。  「なにそれ意味わかんない、とうとう逆切れ? うそつき」  「うそなんて、ついてません」  あたしがいい返したところへ、千葉主任がやってきた。  「ねえねえ竹内さん、混入の原因がわかったよ」  主任はあたしをちらっと見て、ちらっと笑った。  「この子のせいじゃなかったんだ。実は深夜シフトの実習生がずっと勘違いしてたんだ。わざわざこっちの部屋まで歩いてきて、ここに入れてたんだって。向こうの主任がほら、あの大塚大先生でさ、なんだか数が合わないなあ、とは思ってたらしいんだけど、のんきにかまえてて、オレが調べてやっと……」  竹内チーフはずっと動かないで、主任のせつ明を聞いていた。顔からは赤みが消えて、反対にどんどん白くなっていった。  あたしはどきどきした。  「そういうことだから、じゃ」  千葉主任はあたしにまたちらっと笑いかけて、それから出ていった。  竹内チーフは足がゆかにのりでくっついちゃったみたいに動かない。班の人たちはみんなミシンにかぶさって、すごいいきおいでかけだした。  あたしもなにをいったらいいのかわかんなくって、ミシンにもどろうとした。  「……それで、してやったつもり?」  うめくような声がして、竹内チーフがとんできた。大きい音がして、ほっぺがびりっとした。  「竹内さん!」  となりの班のチーフがうでをつかんでとめた。その人がとめなければ、あたしはもう2、3回たたかれてたと思う。  うでをつかまれたまま、すごい顔で竹内チーフはさけんだ。
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