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お休みの日、あたしと丈一さんはいっしょに買い物に行った。そのうち、買い物しないでただ歩くだけのこともふえた。
丈一さんはあんまりしゃべらない。ポケットに手をつっこんで、まっすぐ前を向いて歩く。歩くのが早くて、あたしは息が切れてしまう。あんまり早くてくたびれると、あたしは丈一さんのポケットに手をつっこんで、中の手をにぎった。そうすると、丈一さんはちらっとあたしを見て、歩くそく度をゆっくりにしてくれた。
そのときの丈一さんの目がやさしく見えて、あたしは悲しくなった。あたしは、丈一さんの中の譲次さんと手をつなぎたくて手をつなぐ。それを知ってるくせに、丈一さんはあたしのことをやさしく見るからだ。
それでも、ゆっくりのさん歩は楽しかった。ゆっくり歩くと、まわりの風景がよくわかる。
お天気のいいお昼なんか、家のあるところを歩いていると、中から笑い声がしたり、おかずのいいにおいがしたりした。なでさせてくれるねこがいて、急にほえてくる犬がいた。お花をうえたり、うえ木の葉っぱを切ったり、車を洗っている人がいた。道ろでは子どもがキャッチボールやなわとびをしていた。どこからかシャボン玉がとんできて、かごに近づきすぎていんこに「じー」っておこられた。
たくさんの家の中にそれぞれ人が住んでいて、それぞれの人たちはみんなちゃんと生活していた。
あたしは、いつか譲次さんがいったことを思い出した。
― 君は、自分で選びながら、ちゃんとした人生を歩むことができる人です。
譲次さんのいう「ちゃんとした人生」というのは、きっとこの人たちのことなんだ。
譲次さんといっしょにいたときには、あたしはあんまりわかってなかった。譲次さんのことばっか見て、譲次さんのことばっか考えていたから。
じゃあ、今のあたしはどうなのかな。
あたしは、ななめ前を歩いてる人を見上げた。まっすぐ前を見て歩く目はまだちょっとこわいけど、このままこの人と歩いていくのかもしれない、ってあたしは考えた。
でもそれが、あたしが自分でえらんだちゃんとした人生なのか、よくわからなかった。
どこからかあまいにおいがしてきて、丈一さんはふと立ちどまる。へいの後ろに木を見つけて、
「こっちがきんもくせい。あっちがぎんもくせい」
って教えてくれた。あたしが、
「丈一さん、ものしり」
っていったら、横を向いちゃった。
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