第1章

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 「そんなの、おまえ以外の全員が知ってる」  やがて道ろの木の葉っぱが赤や黄色に変わって、やがてそれがちって足の下でさくさく鳴るようになった。そのころには譲次さんの歩きもずいぶんゆっくりになっていた。ゆっくりでも、息が切れなくても、あたしはポケットの中の手をいつもにぎって歩くようになっていた。  さん歩や買い物のとちゅうでおなかがすくと、大きなスーパーのフードコートへ行った。そこには牛丼とかラーメンとかハンバーガーとかソフトクリームとか、おいしいもののお店が数えきれないくらいあって、丈一さんはどれでも好きなものをごちそうしてくれた。どこもどれもおいしくて、あたしはぱくぱくむちゅうで食べた。食べてるとき、丈一さんはちらっ、ちらっ、ってあたしを見る。でもあたしが見るとすぐ横を向いて、ちっとも見てないふりをした。  そういう丈一さんがすごくかわいかった。    日よう日のお昼だったから、すごくこんでいた。  あたしは顔を上げて、お店のかんばんを見ながら歩いた。この中でまだあたしが食べたことのないのは、石やきビビンバのお店と長崎ちゃんぽんのお店だ。  どっちがいいか丈一さんに聞こうと思って顔を下ろしたら、あたしはひとりだった。さっきまで、ななめ前にいたはずの丈一さんが見えない。どうしたらいいかまるでわかんなくなって、あたしは立ちどまった。急に立ちどまったせいで、後ろから来た人とぶつかってしまった。あたしは、  「ごめんなさい」  っていったけど、その人はいやな顔をして行ってしまった。こわくなって、人をよけてるうちに、あたしはどんどんすみっこのほうに行った。  やっと人のいないかべにたどりついて、ほっと息を吐いた。あたしはかべにせ中をくっつけて、食べたり笑ったりとおりすぎたりしているたくさんの人を見た。みんななかよしのだれかといっしょで、とても楽しそうだ。ひとりぼっちなのはあたしだけだと思ったら、むねが冷たくなってどきどきしてきた。まるでりく地が見えない海のまん中にいて、あたしの立っているところは小さい岩で、それももうほとんど波にかぶりそう、っていう感じだった。  楽しそうな人たちを見たくなくて、あたしはくるんとかべに向いた。おでこをくっつけてちぢこまって、すんすん鼻をすすった。ずいぶん長い間すすっていたと思う。    ぽん、と後ろ頭をたたかれた。  「えりす」
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