第1章

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 あたしはまた、ひとりで海の岩に立っている気持ちになった。  「あれ」  女の人が急にあたしを見たので、あたしの足は1ミリくらい地面からういた。女の人は丈一さんに、  「こんなかわいいお嬢さんをかくして。さっさと紹介しなさいよ」  っていった。  丈一さんはきょろっと目を動かしたけど、かた車になった女の子にぱちぱち顔をたたかれたせいか、なにもいわなかった。  女の人はあたしにちゃんとおじぎをして、  「ひどい男だけど、見捨てないでやってね」  っていって笑った。  1ミリうかんだまんまあたしは口をぱくぱくして、なにかいわなきゃってあせった。でも声はまったく出ないで、おじぎもできなかった。  丈一さんは女の子をかたからとりはずして、女の人にわたそうとした。女の子は、  「やあだあ」  とかいってあばれたけど、とうとう女の人にわたされた。  丈一さんはだれの顔も見ないで、  「行くから」  っていって、歩きだした。  またまいごになったらいやなので、あたしは走って丈一さんのせ中をおいかけた。  後ろで女の人が、  「今度うちに遊びに来てー、お二人でー」  ってさけんだけど、丈一さんはふりかえらなかった。ずんずん歩いて、スーパーを出て、それでもずんずん歩きつづけた。すごい早足でどうしてもおいつけない。走るのが苦しくて、おなかの中がざわざわぐつぐつこわくて、あたしはまた泣きそうになった。  ことり荘の前まで来て、丈一さんはやっととまった。  あたしはほっとしたけど、息が切れて切れてひざに手をあててはあはあした。  丈一さんはぽつっと、  「親戚だ」  っていった。  まだ息が苦しくて、あたしがなんにもいえないでいると、  「つか、おまえにしたら、何の興味もないよな」  って、口のはしから笑うみたいに息を吐いた。  その日、丈一さんはそのまま帰った。  「えりす、心配ごとがあるんじゃないの」  急に聞かれて、あたしはびくっとした。  日よう日の夜で、丈一さんとあたしはふとんの中で足をからめてくっついていた。外ではしとしと冷たい雨がふっていて、ちょっとでもふとんからはみ出すとかぜをひいちゃいそうだ。  あたしはどうしようかまよったけど、思い切ってしょうじきにいった。  「あのね、明日また月よう日だなって思ったの」  「ああ、なるほど」  丈一さんの仕事には夜きんがあったり、土日も出る日があるのに、
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