アイドル

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「へ?」  先生のキョトンとした顔。 「高知のばぁちゃんの家に行くって。帰りは日曜になるから適当にしとけって、今朝、鍵と五千円渡されたんだった」  ポケットから鍵を先生の前に出して見せた。小さな巾着のストラップがぷらーんぷらーんと揺れる。その向こうで先生はちょっと呆れた顔をした。 「おいおい。そんな大事なこと忘れるなよ」 「あはは、うちよくあるんで」 「家に着いてから飯がない! ってなっちゃうだろ?」 「カップ麺とかなんなりあるからへっちゃらだよ。米だって、塩だってあるし」 「なんだよ。米と塩って」  先生はますます呆れた顔でウインカーを出すと車を車道へ戻した。 「今日は焼肉! いや~、ラッキーラッキー」 「日曜日に戻ってらっしゃるって? あと何日だ?」 「今日木曜でしょ? 金曜、土曜、日曜は夜にもどるだろうから、四日?」 「高校生男子が四日を五千円で足りるのか?」 「ケチだよねぇ~。一日千円だってさ。プラス何かあった時の千円。何かあったら千円で済むわけないっての。ねぇ?」 「あははは。だよな」  車は初めて通る道を抜け、こじんまりとした焼肉屋に着いた。「えらっしゃいっ!」と元気なおじさんの声が出迎える。  チェーン店じゃない焼肉屋なんて、初めての経験。店内が肉と煙の匂いで充満してる。なんかビールとか似合いそうな感じ。飲めないけど。  先生は「肉しか食べない」って言ってたくせに、肉の他にも野菜サラダや海鮮、キノコ盛り合わせとか色々注文して、結局「バランスよく全部食べろ」と言われた。  次から次へ運ばれてくる品を、ゆっくり焼き一番ベストな美味しい状態で食べてると先生が言った。 「青葉は本当に少食なんだな」 「へ?」  肉を齧りながら顔を上げると、先生は食べる手も止めてジーッと俺を見ていた。唇は結んだまま微笑みの形を作っている。  ゆっくりだけど、今日は結構食べてる方だと思うんだけどな。 「そうかな?」 「うん。それにマイペースだよな」 「そうですね。そこは異論なしです。俺のスタイルなんで」 「あははは」  無邪気な笑顔だなぁ~。
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