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……いた。
教室の戸をそっと開けたら、そこには一人黙々となにやら作業をしている先生がいた。
俺のクラス。二年A組の担任教師、長谷部旬二十七才。専門教科は英語。俺の最も苦手な教科。でも先生の授業は好き。
先生は旅行好きらしく、あっちこっちで体験した話を織り交ぜ、楽しくおかしく授業を進めてくれる。だから俺だけじゃなく生徒からの人気も高い。でも、モテモテの要因はそれだけじゃない。なんといってもそのビジュアル。
スラリと長い脚。英語教師とは思えない引き締まった体。キリッとした力強い眉と目力。それとは対照的なぽってりした甘い印象の唇。長めの七三に分けた髪を耳にかけ、たまに目にかかる前髪をうっとおしそうに頭を揺らし払う。
そんな仕草の一つさえ絵になる男。
出で立ちはまさにどこいらの貴族。これが本当に高貴な顔立ちなんだ。そして、服装も然り。シワの一切入ってないスーツのズボンと、ピシッとアイロンのかかった清潔そうなシャツにいつも濃い色のセーターかカーディガンを着ている。なのにもっさい感じは一切なし。超スマート。
女生徒はもちろんキャーキャー。女性教師、保護者のおばちゃんたちもすっかりメロリン。男性陣にしてみればもちろん煙たい存在。俺も今年の四月に先生がやってきた時「なんだコイツ。出木杉君か?」なんて冷めた目で見てたっけ。
でもそんな印象はあっけなく砕かれる。
先生は自分のビジュアルを鼻にかけるようなことはなく、低姿勢で実直。最初は取っ付きにくいかもと思ったけど、実は気さくでにこやかで。
やっぱり出木杉君じゃないか。って思うかもしれないけど、違うんだよね。先生のにこやかさには無邪気さがある。こんなに出木杉君なのに純粋で無垢な子供のようなキラキラした笑顔をするんだ。
そう。まさに、先生は学校一のアイドル。
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