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「一緒でもいいぞ? ただ先生は自分の好きな絵の前で止まっちゃうから。青葉も好きに見て回っていいんだぞ」
「うん」
俺は返事をしながらも、先生のあとをついて回った。
先生は言った通り気に入った絵の前で足を止める。俺も一緒になってその絵をジーッと見た。さっきみたいに感想を言ってもいいんだろうけど、邪魔をしたら悪いような気もして黙ってた。容赦ない先生に、だんだん俺はその時間ももてあますようになってしまう。先生の邪魔にならないように後ろに下がり、キョロキョロと他の作品を見回したりもした。
「先生、俺あっち見てきますね。お気に入り探してくる」
先生は「はっ」と我に返ったような顔で俺を見て口に人差し指を当てながら近づいてきた。
「すっかり忘れてた。青葉、今日は先生はなしだ。うーん……旬くん? がいいかな」
「え……シュンクン?」
先生をシュンクン? なんかとてつもなく呼びにくいんだけど。そしてなんでまたファーストネーム? しかもクンだし。
「ねぇねぇ。でもいいけどな。とにかく、先生は無しな」
俺は「わかったよ。先生!」って言いたい衝動を堪えて、ふんふんと頷いた。
「待ち合わせとかどうします? ……旬君」
先生はニヤッと笑って腕時計を見た。
「今、十一時か。十二時に一階のレストランで待ち合わせしよう。先に入っていてもいいから」
「はーい。じゃあ後でね」
先生と別れてフラフラと歩いて見て回る。
油絵の他にも、イラストチックな版画絵や、浮世絵。ムキムキ彫刻や刀、鎧兜、人を乗せるカゴ、調度品なんかもあってホントにいろいろ楽しめた。約束の時間が近づきレストランに十分前に到着。入り口で待ってると先生も直ぐに現れた。
「お待たせ」
「せっかく待とうと思ったのに」
首を傾げ、拗ねるように言うと、先生が「え?」とびっくりしている。
「なんだ? どういうこと?」
「別にぃ」
大したことじゃないんだけど、待ち合わせを楽しむっていうの? 先生を思いながら、待つのもいいかなって。それだけなんだけどね。
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