アイドル

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 先生のド下手なイラストといい、意外な事もあるもんだなぁ。  教頭はいつもムッとしていて生徒に話しかけることもなければ、行事で交流も一切ない。全校集会の時の司会もそれはそれは、心底めんどくさそうに嫌々って感じなのに。放課後の校舎を回って、居残ってる生徒に声掛けするなんて絶対ないと思ってた。  考えていると、先生は光沢のある包みから画用紙を一枚抜き取りながら言った。 「先生、こういうのわりと好きなんだ。一人じゃつまんないけど、青葉いるし」  好きだったのか!   ドゴーーン! と擬音が鳴り響く衝撃的な真実。好きなのにこのクオリティ……。『好きこそものの上手なれ』の名言をも軽く吹き飛ばす破壊力。でも、先生の後半の言葉にその衝撃も影を薄めた。俺も同じだったから……。だって、こうして手伝うのって結構楽しい。  新しく貰った画用紙に「フンフン」と鼻歌交じりに鉛筆で下書き。一応先生のケンとジョディーを参考にしながら書いていると先生が言った。 「へ~。青葉って案外器用なんだな。あ、いや。器用なのは知ってたけど、俺と同じくらい上手じゃないか!」 ……同じくらい……。  自分の書いてる絵を見下ろし思った。  先生の絵を下手くそなんて偉そうに言ってるけど、実は俺も大概絵心はない。普段学校行事なんかでする工作系は自ら手を出さないで、後ろで見ることにしてるんだ。めんどくさいし。得意じゃないからね。やってもらおうって算段。さすがに三角定規や戦艦ほどではないけど、絵を描き始めた小学生並みのレベルだし。なのに、こんな絵を褒めてくれるとは。  なるほど。……同じくらい……ね。
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