アイドル

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「とりあえず肉しか食べないルールな」 「え? 逆に? 普通肉は野菜食べたあととか、ご飯で腹膨らませろ! とか言うんじゃないの?」 「青葉には赤身肉を食べさせないと」 「そのココロは?」 「笑点じゃない。筋肉つけるには赤身肉なんだよ」  そう言って先生は俺の二の腕を摘まんできた。自分から摘んだくせにびっくりした顔で言う。 「やわらか!」  俺の二の腕は自慢じゃないけど、ふよふよだ。もともと運動は嫌いじゃないけど、ストイックとはかけ離れた位置に在席する俺にとって、「運動イコール疲れる」以外の何物でもない。そして俺はとっても燃費がいい。それは一重にエコの賜物。無駄な動きは極力省きたい。そのためなら結構な範囲で我慢ができる。もはやそれは俺にとって我慢でもなんでもなくなってる程、普通のことになってる。 「いい塩梅でしょ」 「いいって……なにがだよ」  なぜか先生が言い淀んだ。それにつられて俺までもがちょっと動揺してしまった。一瞬だけ視線を反らし、自分を落ち着かせ何事もないように先生へニコッとして見せた。 「もちもち加減」  先生は目を大きくして「あっ!」と声を上げた。 「分かった。アレだろ? 女子の胸はこんな感じかな~って、自分で触ってんだろ?」  今度は俺が目を見開いた。 「さ……触るって、な……にを?」  先生が「え?」って顔して俺の背中をバンと叩いた。 「いてっ!」 「二の腕だろ~」  先生の無邪気さはたまにとてつもなく恐ろしい。もし、先生が冴えないオヤジだったら大問題になる発言だ。でもこの笑顔でそれは一掃される。なんの疑いもなく他意がないことだけは伝わってきた。
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