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先生の動作がピクッと止まる。振り向いた顔はさっきまでと違って、真面目な表情になってる。
「……こっそりじゃなくて、堂々と会えるようにしたいと思ってる」
えっ、それって学校でってこと? いいの? ってか、可能なの?
「……どう……やって?」
俺はゴクリと息を飲む。流れる緊張感の中、先生はフッと微笑んだ。
「だから、俺を信じて待っててくれないか?」
俺の疑問は依然とクエッションマークが三つポンポンポンと並んだままだ。
具体的な説明もないまま、信じろという先生。
視線が下の方を彷徨う。考えてもわからないまま返事するしかなさそうで、俺は僅かに視界で捉えた、尖ってきた口を見つめながら「うん」と返した。先生が俺の頭をポンポンと撫でる。
「信じられない?」
意地悪な先生だ。俺だって信じたいに決まってる。でも、解決の糸口なんて何も見えないんだもん。
「根拠が手持ち無沙汰なだけ」
「面白い日本語だな」
先生はまた頭をポンポンと撫で前を向いた。車が公園から出る。先生は家の真ん前で車を停めて振り返った。
「家に着いたらメールする。出てきてくれてありがとう」
「うん。来てくれて嬉しかった」
キスできない代わりに人差し指を出してチョンと先生のクッキリとした輪郭で綺麗な形の唇に触れた。先生は目を丸くして、嬉しそうに微笑んだ。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
俺も微笑んで、車を降りた。先生の見送りはできない。直ぐに家の玄関ドアを開け中へ入ると静かにドアを閉める。
「…………」
ドアの向こうで、車が遠ざかっていく音がかすかに聞こえた。
先生はちゃんと俺を好きでいてくれてる。こうやってちょっとだけなのに、それでも会いに来てくれたじゃん。心配なんて、しなくていいんだよ。ちょっと我慢したらいいだけなんだから。
そう、自分へ言い聞かせた。
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