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翌日。朝礼の後、先生は教室に入りながら真っ直ぐに俺を見てニコッと微笑んだ。一瞬だけ。でも、嬉しいや。手首をペコッと起こしフリフリしたい衝動を押さえ、俺も先生に微笑んで返した。
先生を信じよう。って素直に思えた。
先生は昨日と違って、極力俺と視線を合わせようとしているみたいだった。授業中もいきなり「じゃ、青葉、次読んで」と当てられる。そこは俺じゃなくていいんだけど。ちゃんと俺の存在を意識下に置いてくれてるのはやっぱり嬉しい。
でも先生が機嫌良さげに見えたのは二時限目までだった。
昼休み前。
隣の教室から出てきた先生は深刻な表情をしていた。何か考え込んだ表情で自分のクラスの前を通り過ぎていく。
どうしたんだろ……。
「なぁ、なぁ、聞いた? 隣のクラスの頼重。今日来てないって」
「ああ、聞いた聞いた。帰ってないんだろ?」
「なになに、家出?」
「家出するようなタイプには見えなかったのにねぇ」
「なんか、緩いヤツだったよな」
「いいとこのおぼっちゃんて感じだったし」
「そういえばD組の子も一学期の途中で消えたよね? あれって結局なんだったの? 中退?」
「じゃね? なんだかんだで、うちらの学年って三人くらい辞めたよね」
「あー、そういや一年の時にいた三木谷も見ないよな。あれは結局なんだったの? やっぱ家出? なぁ、リっちゃん。ん? おーい」
肩がグラグラ揺れて振り返った。ブスリと頬に刺さる一本指。一瞬ピタリと沈黙が漂って、みんなが噴き出した。
「そういや、英語の課題やった?」
「無理ー、意味わかんねーもん」
ポンポン変わる話題は全く耳に入ってこなかった。
先生、大丈夫かな?
俺の心配は増すばかりだった。
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