不穏な出来事

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 掃除の時間になり、先生が教室に顔を出した。  でも俺と目を合わせないどころか、上の空な感じで気難し気に眉間に皺を寄せるばかり。SHRになっても、先生は元気がないまま。普通なフリを装ってるって感じがした。他の生徒はそれに気づいてなさそうだけど、俺には分かった。いつもと違うもん。  先生は終わりの挨拶で教室全体を見回し、ひと呼吸置いて口を開いた。 「最近、日が落ちるのが早い。塾や部活の帰り道、車に気をつけるように。用事が済んだら、プラプラ遊んでないで、真っ直ぐ家へ帰るんだぞ?」  クラスのあちらこちらでコソコソと話すのが聞こえる。  先生がいつも俺に向ける心配症の言葉。それがクラスのみんなの物になってしまった。先生の様子がおかしいのに、俺は俺の特権が一般開放されてしまったのをちょっと寂しく思ってしまう。  SHRが終わって、しばらくすると先生からメールが来た。 『今日の予定は?』  先生の様子と言い、昨日の経験もあって、もうこの文面に期待は浮かばなかった。 『今日は七時半から塾に行くけど』 『そうか。終わる時間は?』 『九時半頃かな』  やっぱり心配してる。一般化しても、自分も枠内に入ったままなんだな。  当たり前なのかもしれないけど、なんか心もとない気分。ちゃんと心配してくれているのに、なぜか胸んところが「寂しいよー」と鳴き声をあげてる。 『じゃあ、塾まで迎えに行く。終わったらメールして。塾の場所教えて』  みんなにも……そんなわけない。だって俺もこの前アドレス交換したばっかなんだから。  俺は先生の恋人なんだから。って思うのに、わかっているのに、やっぱり俺って人を信じられない人間なのかな?  自分にほとほと嫌気が差す。溜息を漏らしながら、先生に塾の場所を教える返事をした。
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