アイドル

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 作業と後片付けを終え、乗り込んだ先生の車は意外にも四駆だった。しかもかなり年季が入ってる感じ。エンジンをかけるとドッドッドと振動が伝わってくる。 「ハッキリ言って乗り心地は悪い。転げ落ちないようにシートベルトしろよ」 「え、そんなに?」  さすがに転げ落ちはないだろうと思いながらもせっせとシートベルトを着用した。しっかり留め具のハマりを確認して前を向く。下からの振動にワクワクのような興奮がつられて膨らんでいった。  俺は今、先生の車に乗ってる。すっかり日が落ち暗くなってる時間に、先生と二人。こっそり学校を抜け出して夜の街に繰り出すんだ。これがワクワクしないわけがない。しかも、焼肉だし。大人の世界って感じ? それに、もしかしたらだけど……生徒でこの車に、先生の助手席に乗ったのは俺が初めてかもしれない。  先生の運転はのんびりしているようで加速する時は勢いよくグンッと加速するなんとも男っぽい感じだった。この車の仕様なのかもしれないけど、ずっと安全運転でちんたら、たらたら走る母ちゃんのとはまるで違う。  車内には洋楽が流れていた。綺麗な女性の声。リピート設定してあるみたいで、同じ曲が流れている。ゆったりゆっくり流れる優しいメロディいつまでもボーっと聞いていられるような曲だった。 「この歌知ってる気がする」 「名曲だよな。CMでも何度か使われてるんじゃないかな」 「だからかな? なんて名前なの?」 「カーペンターズのクローストゥユーという曲だ。『遥かなる影』という日本語タイトルがついてたけど、雰囲気だけでつけたタイトルだろうな」 「歌詞の意味は全然違うってこと? 英語だから何言ってるか全然分かんないけど」
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