アイドル

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 先生はニヤッと笑った。何か企んでる時の顔だ。 「青葉、閉める。を英語で?」 「close?」 「そう。発音はクローズ。ズと濁らせるだろ?」 「うん」 「同じ綴りで、クロースと発音するんだ。そうすると距離が狭まる。という意味になる」 「へぇ~」 「クロース、トゥ、ユー は、あなたの近くで。という意味になる。この歌の英文を日本語にすると、彼らはあなたに近づきたい」 「なるほど。ん? 遥かなる?」  英語で『あなたの近くで』が、日本語だと『遥かなる影』……影。敢えて影って。なんだか遠くに感じる。それがどこまでも続くっていうの? ずっとずっと遠いの? 一緒に居たいと願いながら見つめてるのかな……。  静かだけど、これ見よがしな悲しく暗いメロディじゃなく、可愛らしい音で微笑みながら散歩するような優しい曲調に余計に胸が詰まる。 「切ないっすね」 「邦題をどうやってつけたのかは知らないけど。深読みする日本人には好まれたのかもしれないなぁ……あ、そうだ。親御さんに連絡しておこう。晩飯のこと、連絡してないだろ?」 「あぁ、そうっすね」  先生はハザードを焚き、バスの停留所に車を寄せると自分の携帯を出し、家の固定電話へかけた。 「……出ないな」 「え? ほんと?」  おかしいな。いつもこの時間は晩ご飯作ってると思うけど……。  先生と一緒に首を傾げてハッと思い出した。 「あ、先生。家、誰もいないわ」
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