不穏な出来事

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 俺の上にフワッと毛布が掛けられる。グルンと包まれた俺は、勢いよく抱き起こされた。目の前に先生のドアップ。先生の腕の中だ。  いつもの感覚が蘇る。  何かが膨れ上がってパンッと弾けた。目が熱い。目の縁は一気に水たまりになり、視界が、先生の顔がぼやける。 「青葉、大丈夫か!」  蒼白な顔で呼びかける先生。俺の顔のガムテープをそっと剥がす。その先生の指も震えてる。先生の後ろで全裸の教頭が手錠を掛けられて部屋から連れ出されるのが見えた。 「長谷部、怪我は?」  先生に話しかけたのは塾の日に見たスーツのクールな眼鏡男。先生は俺の目をジッと見つめ、頬や頭を震える手で撫でた。ジンと胸の奥が震える。 「どこにも怪我はしてないか?」 「……ん……」 「……よかった……」  先生は大きく息を吐き、ギュッといつもよりももっと強く俺を抱き締めた。背後でスーツの男が「外へ出ろ」と言って、他の人間を部屋から追い出し自分も出て行く。硬直していた体からドッと何かが落ちる。俺は先生にグリグリと頭を擦りつけた。 「……こわっ、かっ……た……」  先生はギュウギュウと俺を締めたまま、小刻みに頷いた。 「俺も、怖かった」  その声にまた、ジンと胸が熱くなる。顔を上げた先生の目はうっすらと潤んでいた。 「お前を、失ってしまうんじゃないかと」 「うん」
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