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その後俺は、事件のあらましを先生から教えてもらった。
今年の冬、二月十日。
一年生の三木谷光一という生徒が行方不明になった。父親は大企業の社長だったため、当初身代金目的の誘拐の可能性が高いと警察は推察した。しかし結局犯人からの連絡はなく一週間が過ぎた。次に怨恨の線でも父親の周辺を洗ったが、それらしき容疑者は浮上しなかった。事件事故の両面で手がかりがまったくないことから捜査は一気に難航したらしい。
警察は結局、組織的な人身売買の犯行へと切り替えて捜査。しかし捜査は直ぐに行き詰ってしまう。三木谷光一の行方不明が発覚したのは、午後八時五十分。迎えの運転手も光一が姿を現さないことを不審に思わなかったのだと言う。
光一は奔放な性格で、迎えを断ることも忘れ、友人たちと遊びに行ってしまうことも多かったらしい。三時半の迎えの時点で、光一がどこにいたのかすら把握できない状況だったのだという。もちろん内部事情に詳しい運転手の犯行か? と疑う者も出たが、運転手にも疑わしいところは一切なかった。
三木谷光一は煙のように消えてしまったのだ。
どこで行方不明になったのかも分からず学校関係者の身辺を洗っていたところに教頭の趣味が怪しいという事実が判明。しかし自宅に生徒を監禁している様子もなく、教頭の個人口座にも動きはない。また三木谷光一が行方不明になった日のアリバイもあり、容疑者としては絞れない状況だった。
でも、学校全体で大掛かりな人身売買に関わっている可能性も捨てきれず、政治家からの圧力もあり、苦肉の策として刑事が学校に潜伏することになった。
それが先生。長谷部旬だった。
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