青い私、十年前の省察

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青い私、十年前の省察

青信号で横断歩道を渡って、雑踏の中で一人考え込んでみる。十年前の私について。暑気に満ちた酸素を鼻で吸い込むと、ほのかに甘い、シトラスの香りがする。ような気がする。多分、気のせいだと思うのだけれど。 連日、茹だるような酷暑が続いている。ヘチマの蔓みたいに鬱陶しく絡んでくる汗と、それに流されるチーク。モノクロのボーダー、その白線を踏んで、昨日行ったかき氷屋で食べた、真綿のような氷を思い出す。粘ついた口内で唾液を飲む。妙に喉が渇く。 忘れる、という行為は、人間が記憶をパンクさせない為に備えた、一種の防衛機制なのだと知った。去年歩いた階段の数など覚えてはいないし、一昨日見かけた標識の模様なども、とうに忘れた。忘れながら生きて、前に進む。踏みしめる横断歩道の横縞が、規則正しく明滅を繰り返すように。私たちは膨大な情報の中から、日々何事かを選び取って、同時に捨てている。忘れながら生きて、前に進む。私はそのフレーズを脳内で反芻する。
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