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この門を通るのは何年ぶりだろう。
すれ違う学生が若く見える。
……まぁ実際若いのだが。
敷地内に足を踏み入れると、視界に入ったのは大きな時計塔。
そして等間隔に植えられている桜の木。
桜は満開といったところか。
週末には天気が崩れると言っていたから、明日の入学式は見頃だろう。
見渡していた視線を時計塔に戻す。
その周りのベンチの1つ。
緊張した面持ちで座っている有村を見つけて、思わず頬が緩んだ。
ずっとあんな感じで待っていたのか。
歩みを進めると、有村が俺に気付いてすぐに立ち上がった。
「悪いな、待ってもらって」
「い、いえ!全然!!」
そう言えば私服姿は初めて見る。
薄いブルーのワンピースにカーディガン。
落ち着いた女性らしい格好に安心する。
まぁそこまで変わった格好はしないとは思っていたが。
「あ、あの、電車で来たんですか?」
「ん、そう。住んでるとこは大学から近いけど、ここ駐車場ないし。あと今夜送別会だから車は置いてきた」
「先生もお酒を飲むんですね」
意外そうに言われて苦笑する。
「そりゃ人並み程度には」
ベンチに座ると有村も隣に腰掛けた。
ここなら知り合いに会う事はないだろう。
それに日差しも暖かい。
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