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彼女は僕に首ったけ
どんよりとした蒸し風呂のような部屋。
壊れた扇風機を挟んでむさ苦しい男二人が口論している。
「何や、この扇風機? ちっとも風がこっちに来やへん!」
「この扇風機はな。一途な扇風機やねん」
「何じゃ、そら?」
「お前、このあいだワシに結婚あきらめろって言うたやろ!」
「唐突にその話かいな。持って来た見合い話、片っ端から潰しやがって!」
「大層に言いやがって。地雷物件ばっかりやないか」
「やかましいわ!だいたいお前に釣り合う娘なんか滅多におらんわ。おまけにヨメの女友達に恥かかせやがって! おかげさまで一家離散の危機じゃ!」
「恩着せがましいやっちゃな。それは、まあええ。それでお前はワシに何と言うた?」
「何度でも言うたるわ! お前は扇風機でも口説いとけ!」
「(ニヤリ)」
「な、なんや? その不気味な笑いは? 気持ち悪いやっちゃな」
「ワシは成功したんや」
「誰とセーコーしたって?」
「ワシは成功したんや」
扇風機に意味深な視線を投げる。
「まさか?! お前、扇風機に??」
「そうや! そのまさか、や! ワシは彼女を振り向かせた」
「おいおいおい!」
「冗談じゃない。本気や。それが証拠に彼女はワシに首ったけや!」
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