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 「その連絡で、身辺調査(サグリ)は終了か。君の意見は?」  「俺はデリック・ジェラルド。ニューヨーク・ウォール街の結社支部から来た。おまえはイギリス人だろう? 俺の意見を聞くならな。まず、名前を名乗ってからだ。まだサグリ足りない。カンだ」  「エクソシストのレイモンド・スタイロンだ。意見を聞きたい」  ジェラルドはため息をつく。「具体性が不十分だ。素人臭いサグリにもなっていない。なにか理由があるのかもしれない。この和史の突然死が統合占術学上の異常現象(イレギュラー)だとして、報告が行ったこと。普通は、自然すぎて調べようともしないはずだ。それから、こんな橋の東にあるバス停という現場が不可解だ」  そして空を仰ぎながら、「まず予定通り、ジャズ喫茶に行って二人の日本人に合流することだ」ジェラルドは言う。  スタイロンは呟いた。  「この国は嫌いだ。ここの世界最古のブラッド・ロイヤルのエンペラーは、我が国のケンブリッジ公爵ウィリアム王子殿下とキャサリン公爵夫人殿下の挙式に出席されなかった。お母上のウェールズ大公妃ダイアナ殿下が不慮の死を遂げたというのに。いくら、あの大地震や原発の事故があっても、礼儀に欠く。その王子殿下が不憫だと、思わないか?」そう言ってメガネの位置をなおす。  「それは、同意を求めているのか? ずいぶんと、変わり者のイギリスびいきと組まされてしまったものだ。まったく! 世界中がこの国を応援しているというのにだ」  ジェラルドは舌打ちし、唾を吐き捨てた。  スタイロンは、それを見て、「歴史がない。礼儀を知らない。教養がない。所詮、人間には、わからない者と、わかる者と、わかったつもりになっている者の三つがある。わからない者は、わかったつもりになっている者よりはタチがいい。なぜならば、偽りがない」  ジェラルドは、聞いていないふうに、しばらく無言で夕焼けを見ていた。  そして、ポツリとつぶやく。  「お互い話が噛み合わないな。つくづく、世界秘密魔術師結社委員会(サバト)は相性占いもまじめに研究した方がいいと思うんだが」  夕焼けなど気にもとめないで、一方のスタイロンはクローバーの中から一本を引き抜いて、言った。  「それには同意する」と応えると、あとは何も言わず、堕胎医の持つような黒い大きなカバンから、虫眼鏡(ルーペ)を取り出し、眺めると仕舞い込んだ。
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