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一人は、ひょろ長い体が傾くほど大きな重そうな革のバッグを携えているガイジン。
もう一人は、ロック歌手のような格好の黒レザーづくめ、体格のいい奴で耳にいくつものピアスをしているガイジンだ。
「俺たちは月読予言塔会の要請で話を聞きに来た。俺はデリック・ジェラルドという。ニューヨークから来た」ピアスのガイジンがサングラスを外して言う。
「ローマから来たレイモンド・スタイロンだ。話を聞きに来ただけだ」とバッグのガイジン。
稜弥は美景が落ち着くのを確認した。
美景は、握手しようと手を伸ばし、「嶋原美景です。よろしくお願いします」と言う。
スタイロンと名乗った男は応じず、「話を聞いて、それから握手するかもしれない。話を聞いても帰るかもしれない。美景、あなたはボディー・ガードを連れてきている。関係者の日本人だと聞いてきたのに、話が違う」
稜弥は「こっちは森川稜弥。隣町の千石から来た。九鬼神伝天真兵法左伝。忍術の一派とも言われているが、兵法家だ。嶋原さんの昔からの友人で、ボディー・ガードではない」
二人の男たちは椅子に座った。
ジェラルドは日本のビール、スタイロンはギネス・ビールを頼んだ。
美景は話をきり出した。
「世界秘密魔術師結社委員会に連絡したのは私です。存在を知っていたのは大学のサークルの井上円了怪奇研究倶楽部にいるから」
ジェラルドは笑った。「財政的には厳しそうな組織だな」
そして、黒い革ジャンパーのポケットから、マルボロを取り出し、ジッポーで火を点けた。
「元講師の甲野和史先生が、荒川土手のバス停で突然死しました。警察が呼ばれて身辺調査がされたの」
あたりをうかがって、美景の声は小さく変わる。「つまり、変死ということ」
さらに続ける。「そのあとは、バス停の近くの交差点で車の事故が何件も起きはじめたの。もしかすると、あの統合占術学上のイレギュラーかもしれないと思って問い合わせると、やっぱり思い違いではなかったことがわかりました」
美景は稜弥の目を気にしながら、「私、あの周辺で光が見えるんです。それから、ものに触れると、そのものに残っている人の思いを感じる力があります」
稜弥は少し驚いたふうだった。
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