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「すまない。翔也は、何か変化球とか持っているか? 投球練習をするなら混ぜながら配球を組み立てたいからな」
「変化球はあるよ。カーブだけだけど……」
「カーブだな。オーケー。それなら十分に考えられる。カーブだけということはストレートには自信があるんだな」
「ああ、中学の軟式ではMAX百三十八キロだったはず……」
「分かった。その情報があれば十分。じゃあ、やろうか」
一成はマウンドから降り戻ると、ミットを構えなおした。
「行くぜ。一成?」
翔也は一成のリードに従いながら腕を振りかぶった。左足を前に出し、右腕を鞭のように振る。ボールは勢いよく一成が構えた所へと入った。
「ナイスボール」
一成は立ち上がって、翔也に返球した。
へぇー、こいついいリードするな……。
彼のリードは的確で構えた所がほとんどコースぎりぎりの場所をついていた。サインも出しながら翔也の投球をずっと知っているかのようだった。
翔也の顔に笑みが浮かぶ。
二球目は左下のボール球にカーブを要求してきた。
なるほど……この制球力は本物だ。スピード、コントロールもいい……。
一成は翔也のボールを二球受けただけでそう感じた。
「うん、いいボールだね。キャッチャーの構えた所に来るボール。とてもいいよ」
「そうでしょ。そうでしょ。まあ、今まで軟球しか投げてこなかったから少しコントロールは乱れるんですけどね……」
「いや、今の段階では十分な戦力よ。そして、古矢君もいいキャッチャーだわ。その選球眼に頭脳。面白いわね」
翔也の評価をした後、一成を振り返ってそう言った。
翔也は帽子を脱ぎ、右腕で額の汗を脱ぎながらホッとした。
「それで、ま、前……。ええと、何と呼べばいいんでしたっけ? 色々と名前が多くて覚えられなかったんですけど……」
「あ、私はこの子たちからは『夏ミカン』と呼ばれているからそのまま統一してくれるとありがたいわ」
「じゃあ、夏ミカンはなんで野球部の監督になったんですか? 普通は、野球部は男の監督がすると思うんですが……」
「ええと、この学校には野球の経験者の先生がいないの。それに野球部の顧問や監督なんてしたら評価など得られないという大人のずる賢い性格が今の現状よ」
腕を組むために、ヘルメットとバットを地面に置く。
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