第1章  二十年連続初戦敗退の弱小校

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「なんで、今の打てたんですか? インコースぎりぎりを責めたはずです。監督は、読めなかったはずだ!」 「じゃあ、訊くよ? なんで、あそこで三球勝負にしたのかな?」  振り返って、微笑みながら見る。 「確かに古矢(ふるや)君のリードは正確でいい。でも、なんで私がこうも簡単に打てたのか分かる? ずる賢さが無いんだよ。頭が良すぎて、それを忘れている。君は高校生なんだから大人のプレーをしなくてもいい。ずる賢いのがキャッチャーにいれば、それだけ相手は打線に苦労するんだよ」  一成(かずなり)は悔しそうな顔をして下を向いた。それを見た夏実(なつみ)は頭に軽く手を載せた。 「相手を読めば読むほど難しくもなる。だけど、それは駆け引きと同じ、百パーセントの選手なんていないんだから落ち込まない。いいね!」 「はい……」  そう言って、夏実は軽くストレッチをしながらベンチに戻った。 「夏ミカン。あいつらどうだった?」 「一年生にしては有望すぎるくらい怖い選手よ。これは今年面白くなりそう……」 「へぇー、その目が確かなら後は四人だよな……」  ベンチでは夏実と先輩たちが話していた。  ま、打たれたのは俺であって、力が足りなかったか……。あいつのリードもまだまだということだったのね。だから、あの監督はそれを今気づかせたかったのか……。  翔也(しょうや)は、マウンドから降りて一成と共にベンチに向かった。  そして、春休み最後の練習はこの後三時間みっしりと練習し、解散した。  春休み最後の夜は母親の実家で過ごした。  故郷に帰ってから初めておばあちゃんの家に行き、豪華な料理を食べた。テレビを点けると丁度サッカーのエキシビションマッチの生放送をやっていた。昨シーズンのJ1優勝チームと三位のチームの試合だった。前半三十分に差し掛かるいいタイミングだった。スコアは1―0で三位のチームがリードしていた。  MFからFWへと速い展開に持ち込んでいる。中から外に、外から中へとパスを回していく。そして、エースのシュート。だが、ボールはゴールポストに当たりキーパーが止める。掴んだボールをすぐに蹴り、カウンターを始めた。  やはり、どのスポーツにもそれぞれルールがある。それに則ってプレーする選手こそ、心技体全てを兼ね備えた素晴らしいプレイヤーなのだろう。
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